- 1週間後 -
アーサー:
「なるほどね。だから最近夜中に下から変な声がしたわけか。
何だと思ったよ」
サマンサ:
「ふふふ。
このところアリシア、仕事から帰った途端アトリエにこもってたからね」
アーサー:
「……あいつ、そんなに真面目だったっけ。意外だな」
サマンサ:
「私もちょっとびっくり。
でも、最初は5枚描くって言ってたんだけど、10枚も届けたんだよ!
この短期間でそんなに仕上げるなんて凄いよね!」
アーサー:
「へえ!あいつもやる時はやるんだな」
サマンサ:
「お菓子のために頑張ったのかも」
アーサー:
「お菓子?」
サマンサ:
「ブリジットもお店が華やかになったってすっごく喜んでた」
アーサー:
「……」
サマンサ:
「まだ直接会うのは気まずい?
連絡はしてるんでしょ」
アーサー:
「……情けなくてさ」
サマンサ:
「ふふ……」
アーサー:
「?」
サマンサ:
「ブリジットはそんな風に思ってないよ。
確かめに行こう」
アーサー:
「え、どこへ?」
サマンサ:
「勿論『プレエミネント・ドメイン』!
お店貸し切りにするから皆で来て、って言ってくれて。
今度の日曜なんだけど行くでしょ?」
アーサー:
「……行かせていただきます」
サマンサ:
「素直でよろしい。それじゃ決まりね!」
アーサー:
「(会うのは……久しぶりだな)」
サマンサ:
「う、相変わらず強すぎ」
- 日曜日 -
ジェイコブ:
「アーサー、テーブルくっつけるぞ」
アーサー:
「ああ」
ケイト:
「パン・ド・ショコラとカフェラテをお願い!」
ブリジット:
「はい!少々お待ちください」
ジェイコブ:
「(ヒソヒソ……)
おい!お前知り合いなら紹介しろよ!」
アーサー:
「はあ?」
ジェイコブ:
「(ヒソヒソ……)
可愛いじゃん?
お前な、俺へのホウレンソウがなってねえぞ。最重要事項だぜ」
アーサー:
「……」
ブリジット:
「お待たせしました、パン・ド・ショコラとカフェラテです」
ケイト:
「ん~!美味しそう!」
アリシア:
「(もぐもぐ……)
アンタ、そんなところでぼけっと突っ立って何してんの?
頼まないの?」
アーサー:
「い、今頼むよ」
アリシア:
「お土産は後!
迷うのも分かるけどアンタの場合は優柔不断なんだからね。
ちゃっちゃと決めなよ(もぐもぐ……)」
アーサー:
「うるさいな……」
サマンサ:
「……」
ケイト:
「美味しい。深みが違うわ」
ジェイコブ:
「たまには酒じゃなくてコーヒーも悪くねえな。
何笑ってんだ?」
サマンサ:
「……」
ジェイコブ:
「シカトかよ」
サマンサ:
「えっ、わ、私?」
ジェイコブ:
「じゃなかったら誰だよ?
ミルクたっぷり派なんだな」
サマンサ:
「あ……!
つい入れすぎちゃって」
ジェイコブ:
「あーあ。ほら、俺のと交換だ」
サマンサ:
「えっ」
ジェイコブ:
「気にすんなって。俺ミルクたっぷりが好きなんだよ」
サマンサ:
「でも……」
ジェイコブ:
「気にすんな」
ケイト:
「嫌ね。口付けたものじゃない」
ジェイコブ:
「おう!気にすんな。ああ、美味い」
ケイト:
「サマンサ、無理して飲まなくても替えてくるわよ」
ジェイコブ:
「何だよ。俺は雑菌扱いか」
サマンサ:
「私は大丈夫」
ケイト:
「そう?」
ジェイコブ:
「そうだぜ。な?」
サマンサ:
「あ、うん……」
アリシア:
「ね、ね、ところで!
あの掛かってる絵、一体誰が描いたと思う?」
ジェイコブ:
「あん?」
ケイト:
「誰が?……」
アリシア:
「何と何と!あれもあれもあれも!ぜーんぶっ!
この天才画家アリシアちゃんが描いたんです~!」
ケイト:
「これ全部?」
アリシア:
「そうなんです!!向こうのやつもあたしが描いたんだよ!
芸術を感じろ~!」
ジェイコブ:
「さっぱり分かんねえ」
アリシア:
「アンタにはそうでしょうよ!」
ケイト:
「やっとアートスクール出身らしいところが出たわね……」
アリシア:
「お!姐さ~ん!凄いっしょ凄いっしょ!
あれ?でもこれ褒められてるのかな!?」
アーサー:
「(ええと……どうしようかな)」
ブリジット:
「ゆっくり決めて良いよ」
アーサー:
「……ありがとう。
そうだな……それじゃ俺は……」
サマンサ:
「……」
アリシア:
「ブリジット、おかわりー!」
ブリジット:
「あら、うふふ。かしこまりました」
アーサー:
「お前、いい加減にしろよ」
アリシア:
「良いじゃん。10枚特典だもん。
羨ましかったらアンタも絵を描くんだね。
ま、無理だろうけどさ~!」
アーサー:
「……」
ブリジット:
「本当に嬉しい。
アリシアがこんなに素敵な絵を描いてくれて。
お店にくるお客さんがこの絵を眺めて幸せな気分になってくれると思う」
アリシア:
「へへ」
ブリジット:
「アートでいっぱいで私も幸せになる。
アリシアにお願いして良かった。どうもありがとう」
アリシア:
「そ、そんなに褒められると照れちゃうじゃん。
でも、へへへ。そんなとこかな~?」
アーサー:
「(普段ゲームばっかりやってるくせに)」
ブリジット:
「はい、できたよアーサー。お待たせ」
アーサー:
「あ、ありがとう」
ブリジット:
「ゆっくりしていってね」
アーサー:
「……」
ブリジット:
「うん、私も座ろうっと」
サマンサ:
「どう?」
アーサー:
「美味しい」
サマンサ:
「最高よね」
アーサー:
「ああ」
サマンサ:
「これが毎日食べられたら幸せだよね?」
アーサー:
「……」
ブリジット:
「ふう!
毎日は無理。
特に遅番の時はお店に出られないから」
サマンサ:
「そりゃそうよね」
ケイト:
「遅番?何の仕事してるの?」
ブリジット:
「警察官だよ」
ジェイコブ:
「ケ、ケーサツ!?」
ブリジット:
「元々私の伯母さんがお店をやってるんだけど、入院しちゃったからね。
今、いとこと一緒にお手伝いしてるの。
ほとんどいとこ任せになってるけど……」
ケイト:
「じゃあ本業じゃないのね。
それでこの味って凄いわねえ」
ブリジット:
「ありがとう。料理するの好きなんだ。
食べた人が美味しいって笑顔になるのを見るのはもっと好き」
アリシア:
「美味しい!」
ブリジット:
「ふふ。ありがとう」
ケイト:
「じゃあ、自分のお店を開く気は?」
ブリジット:
「うーん。ないかな。
本職は警察以外は考えられない。
私は警察官になるのが子どもの頃からの夢だったから……」
サマンサ:
「昔からだよね」
ブリジット:
「うん」
アリシア:
「そういうの格好良いな~!」
サマンサ:
「ブリジットにはぴったり。これ以上ない天職だよね。
ね、アーサー?」
アーサー:
「えっ、う、うん」
アリシア:
「ん?なになに?」
サマンサ:
「うふふ。
それじゃあ改めて……自己紹介タイム!」
ケイト:
「ケイト・マルグリーズよ。宜しく」
ジェイコブ:
「ジェイコブ・ナイトレイだ
(警察じゃなかったらなあ……)」
アリシア:
「もう会ってるけどさ!
あたしはアリシア・ニューマンだよっ!」
ブリジット:
「私は、ブリジット・エヴァンス。宜しくね」
アーサー:
「……」
サマンサ:
「私とアーサーは紹介不要ね」
アリシア:
「なーるほど。そういうことか」
ケイト:
「昔からの友人?」
サマンサ:
「そう、私たち3人。
アーサーとは小学生の頃からだけど、ブリジットとは一番古いよ。
幼稚園の頃から友達なの」
ケイト:
「そうなの、長いわねえ!」
ブリジット:
「うん。でもどうやって仲良くなったのか忘れちゃった」
サマンサ:
「私も」
ケイト:
「長い付き合いになると最初のことなんて記憶ないわよね。
ジェイコブ?」
ジェイコブ:
「おう……そういえばお前とは結構長いよな」
ケイト:
「そうねえ。バンド組んだのが今じゃ夢のようね」
アーサー:
「……」
サマンサ:
「あっ」
ジェイコブ:
「お?」
サマンサ:
「そうそう、ブリジット。
実はジェイコブとケイトには会ったことあるのよ」
ブリジット:
「えっ?」
ケイト:
「?」
サマンサ:
「大学生の時アーサーに招待されてライブに行ったじゃない?
ジェイコブとケイトはその時のバンドメンバーだったのよ」
ブリジット:
「そうなの!?」
ジェイコブ:
「おっ、俺たちのライブ観に来てくれてたのか?」
ブリジット:
「そうみたい。
…… そういえば格好良い女の人がいたな」
ケイト:
「それ、私ね」
ジェイコブ:
「俺の記憶は?思い出せるだろ」
ブリジット:
「…………」
ジェイコブ:
「…………」
ブリジット:
「ドラムのお兄さんが格好良かった!」
ジェイコブ:
「それ、俺じゃねえな」
サマンサ:
「うふふ、アーサーの記憶が一番残ってるんじゃない?」
ブリジット:
「そうかも!」
アーサー:
「……」
サマンサ:
「今日はありがとう」
ブリジット:
「どういたしまして。
こちらこそ来てくれてありがとう。
皆、また来てね」
アリシア:
「今度さ、うちらのフラットにも来てよ。
ケイトが腕によりをかけてごちそうするから!ケイトが!」
ケイト:
「色々と準備したいから、来るときは連絡して」
ブリジット:
「ありがとう。それじゃあ、遊びに行くときは連絡するね」
アリシア:
「んじゃ、また今度ね!絶対絶対来てね!」
ブリジット:
「うん!……」
「……」
「……アーサー」
アーサー:
「……?」
ブリジット:
「来てくれてありがとう。
またお話できる時があったら……」
アーサー:
「ああ。また来ても……良いか?」
ブリジット:
「勿論」
アーサー:
「ありがとう。じゃあ、また」
ブリジット:
「待ってるからね」