#12 「帰還」

アーサー:
「(ここも駄目)」

「(ここも閉まってる。この時間なら当然か)」

「(あいつが行きそうな場所は全部回ったけど……)」

「(……電話は繋がらない、か。
まさか本当に刺されたとかないよな)」



「(どうする……警察に電話……?
そんな大げさなことじゃないとは思うんだよな……)」



「(でも、このまま『いなかった』って帰れないぞ。
今から市外を探したら朝になってしまう。
……やっぱり警察に……。警察?)」

「(駄目だ。さすがに迷惑すぎる……)」

ジェイコブ:
『(おい!お前知り合いなら紹介しろよ!
お前な、俺へのホウレンソウがなってねえぞ)」』

「(いや……いくらあいつでもそれはさすがにない……)」

「(…………)」

「(……まさかとは思うけど万が一ということが……)」

ブリジット:
「アーサー!どうしたの?」

アーサー:
「あっ、あの……」

ブリジット:
「あっ!こんな格好でごめんね!」

アーサー:
「いや、ほんっっっとに……こんな時間にごめん……!」

ブリジット:
「上がって!」

アーサー:
「いや、大丈夫。それより、ジェイコブ来てないか?
(万が一ということが……)」

ブリジット:
「ジェイコブ?
ううん、来てないけど」

アーサー:
「なかった……良かった……」

ブリジット:
「?……何かあったの?」

アーサー:
「フラットに帰ってこないんだ。
色々探したんだけど見つからなくてさ」

ブリジット:
「えっ、そうなの!?
警察には届けた?」

アーサー:
「いや、あいつのことだし届けるほどじゃないって思って。
いないなら良いんだ。
ごめんな、どうもありがとう」

ブリジット:
「待って。そしたら私も捜す」

アーサー:
「えっ?いや、でも……」

ブリジット:
「一緒に捜す」

アーサー:
「そういうつもりじゃ……」

「!」

「あ、ごめん、電話が……サマンサからだ」

ブリジット:
「出て出て」

アーサー:
「……もしもし?」

サマンサ:
アーサー!?ジェイコブが帰ってきたよ!

アーサー:
「見つかったか!……ああ、分かった。
……」

ブリジット:
「見つかった?」

アーサー:
「ああ。帰ってきたってさ。
はあ……」

ブリジット:
「良かったねえ!」

アーサー:
「ブリジット、こんな時間に押しかけて本当にごめん。
お騒がせしました」

ブリジット:
「ううん!見つかって良かったよ。
あちこち回って疲れたでしょう」

アーサー:
「ああ……」

ブリジット:
「へとへとね。大丈夫……?」

アーサー:
「大丈夫だ。何としても家に帰るよ」

ブリジット:
「本当に大丈夫?気を付けて帰ってね。おやすみなさい」

アーサー:
「ああ。おやすみ……」

「(全く、ジェイコブ……どこに行ってたんだ……!!)」

 

サマンサ:
「ジェイコブ……?」

「ジェイコブ!皆心配してたんだから!」

ジェイコブ:
「おう!俺は帰ったぞ!」

アリシア:
「(おお!?まさかの熱い抱擁!)」

ジェイコブ:
「何だ何だ、えらい歓迎っぷりだな。どうした?」

ケイト:
「どうしたじゃないわよ。
遅くなるんだったら必ず連絡しなさい。
アーサーが今あなたを捜しに行ってるのよ。
ルール破りはご法度なの分かってるでしょ?」

ジェイコブ:
「あ?遅くなる?何言ってんだ。
俺はいつも連絡してんだろうが。
それに、ルールなんて破ってねえぞ」

ケイト:
「思いっきり破ってるじゃない。
今何時?」

ジェイコブ:
「……!?
時計が壊れたか?3時」

ケイト:
「そうよ。3時よ」

ジェイコブ:
「いや、んなわけねえ。
俺は確かに23時前には帰ってきた。
それでこのフラットの裏でな……」

ケイト:
「大嘘の言い訳ご苦労様。
サマンサが一番心配してたのよ。全く、どこ行ってたのよ!」

ジェイコブ:
「どこって仕事だ。いつものクラブだよ。
それが終わってから変なことが……」

アリシア:
「はあ、やれやれ。
これは大家さんに報告ですな~」

ジェイコブ:
「馬鹿、聞けよ。
クラブを出たのが22時だ。
俺の時計が壊れたとしても、クラブのどでかい時計も見た。
22時だった。信じろ。
寄り道してねえ。まっすぐ帰ってきた。
あそこからここまでどうして5時間もかかる?」

ケイト:
「それじゃ、5時間何してたの?」

ジェイコブ:
「……覚えてねえ」

サマンサ・ケイト・アリシア:
「「「はあ???」」」

ジェイコブ:
「ああ……、思い出すと気持ち悪いぜ……。
仕事からいつも通り帰ってきたらよ、フラットの裏に緑色の光が見えたんだ」

ケイト:
「光?」

ジェイコブ:
「おう。その光が消えたと思ったら、頭上に突然光った円盤が現れて……。
そっから先は全然記憶がねえんだよ」

「気が付いたら同じ場所にアホみたいにおねんねしてた」

ケイト:
「ちょっと……何を言ってるか……整理させて。
つまり、酒を飲み過ぎただけの話でしょ?」

ジェイコブ:
「ちげえよ。俺は正気だって。
酒は確かに飲んだが、前後不覚になるまで飲んでねえぞ」

アリシア:
「やっぱやらせじゃなかったのか~!」

ケイト:
「え?」

アリシア:
「こないだテレビでやってたんだよ。
エイリアンが人間をさらってく事件。
アンタ大丈夫?本物?エイリアンと入れ替わったりしてない?」

ジェイコブ:
「その前にお前が一番怪しいんだよなあ。
実はエイリアンだろお前?」

アリシア:
「なぬ!?」

サマンサ:
「あのSF映画みたい……。
……とにかく、アーサーに電話しないと」

「……というわけ」

アーサー:
「で、奴は?」

サマンサ:
「部屋。もう寝るって」

アーサー:
「エイリアンにさらわれたなんて酷い言い訳だな。
何だったんだ……。
無事だっただけ良かったけど」

サマンサ:
「そうね。
アーサー、探しに行ってくれてありがとう。
ごめんね……」

アーサー:
「いや良いけど……ブリジットのところまで行っちゃったよ俺」

サマンサ:
「え!?」

アーサー:
「非常識だ。俺も迷ったよ。
だけどブリジットのところに行けば、解決しそうな気がしたんだ」

サマンサ:
「それで?」

アーサー:
「ああ、事情を話した瞬間にサマンサから電話が来たんだよ。
良かったよ、本当。一緒に捜すって言ってたし……」

サマンサ:
「電話しない方が良かったのかなあ?……なんてね」

アーサー:
「え?」

サマンサ:
「ううん。
3時40分……まだ少し眠れるね」



「アーサー、おやすみ」

アーサー:
「?」

 

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