アーサー:
「(ここも駄目)」
「(ここも閉まってる。この時間なら当然か)」
「(あいつが行きそうな場所は全部回ったけど……)」
「(……電話は繋がらない、か。
まさか本当に刺されたとかないよな)」
「(どうする……警察に電話……?
そんな大げさなことじゃないとは思うんだよな……)」
「(でも、このまま『いなかった』って帰れないぞ。
今から市外を探したら朝になってしまう。
……やっぱり警察に……。警察?)」
「(駄目だ。さすがに迷惑すぎる……)」
ジェイコブ:
『(おい!お前知り合いなら紹介しろよ!
お前な、俺へのホウレンソウがなってねえぞ)」』
「(いや……いくらあいつでもそれはさすがにない……)」
「(…………)」
「(……まさかとは思うけど万が一ということが……)」
ブリジット:
「アーサー!どうしたの?」
アーサー:
「あっ、あの……」
ブリジット:
「あっ!こんな格好でごめんね!」
アーサー:
「いや、ほんっっっとに……こんな時間にごめん……!」
ブリジット:
「上がって!」
アーサー:
「いや、大丈夫。それより、ジェイコブ来てないか?
(万が一ということが……)」
ブリジット:
「ジェイコブ?
ううん、来てないけど」
アーサー:
「なかった……良かった……」
ブリジット:
「?……何かあったの?」
アーサー:
「フラットに帰ってこないんだ。
色々探したんだけど見つからなくてさ」
ブリジット:
「えっ、そうなの!?
警察には届けた?」
アーサー:
「いや、あいつのことだし届けるほどじゃないって思って。
いないなら良いんだ。
ごめんな、どうもありがとう」
ブリジット:
「待って。そしたら私も捜す」
アーサー:
「えっ?いや、でも……」
ブリジット:
「一緒に捜す」
アーサー:
「そういうつもりじゃ……」
「!」
「あ、ごめん、電話が……サマンサからだ」
ブリジット:
「出て出て」
アーサー:
「……もしもし?」
サマンサ:
『アーサー!?ジェイコブが帰ってきたよ!』
アーサー:
「見つかったか!……ああ、分かった。
……」
ブリジット:
「見つかった?」
アーサー:
「ああ。帰ってきたってさ。
はあ……」
ブリジット:
「良かったねえ!」
アーサー:
「ブリジット、こんな時間に押しかけて本当にごめん。
お騒がせしました」
ブリジット:
「ううん!見つかって良かったよ。
あちこち回って疲れたでしょう」
アーサー:
「ああ……」
ブリジット:
「へとへとね。大丈夫……?」
アーサー:
「大丈夫だ。何としても家に帰るよ」
ブリジット:
「本当に大丈夫?気を付けて帰ってね。おやすみなさい」
アーサー:
「ああ。おやすみ……」
「(全く、ジェイコブ……どこに行ってたんだ……!!)」
サマンサ:
「ジェイコブ……?」
「ジェイコブ!皆心配してたんだから!」
ジェイコブ:
「おう!俺は帰ったぞ!」
アリシア:
「(おお!?まさかの熱い抱擁!)」
ジェイコブ:
「何だ何だ、えらい歓迎っぷりだな。どうした?」
ケイト:
「どうしたじゃないわよ。
遅くなるんだったら必ず連絡しなさい。
アーサーが今あなたを捜しに行ってるのよ。
ルール破りはご法度なの分かってるでしょ?」
ジェイコブ:
「あ?遅くなる?何言ってんだ。
俺はいつも連絡してんだろうが。
それに、ルールなんて破ってねえぞ」
ケイト:
「思いっきり破ってるじゃない。
今何時?」
ジェイコブ:
「……!?
時計が壊れたか?3時」
ケイト:
「そうよ。3時よ」
ジェイコブ:
「いや、んなわけねえ。
俺は確かに23時前には帰ってきた。
それでこのフラットの裏でな……」
ケイト:
「大嘘の言い訳ご苦労様。
サマンサが一番心配してたのよ。全く、どこ行ってたのよ!」
ジェイコブ:
「どこって仕事だ。いつものクラブだよ。
それが終わってから変なことが……」
アリシア:
「はあ、やれやれ。
これは大家さんに報告ですな~」
ジェイコブ:
「馬鹿、聞けよ。
クラブを出たのが22時だ。
俺の時計が壊れたとしても、クラブのどでかい時計も見た。
22時だった。信じろ。
寄り道してねえ。まっすぐ帰ってきた。
あそこからここまでどうして5時間もかかる?」
ケイト:
「それじゃ、5時間何してたの?」
ジェイコブ:
「……覚えてねえ」
サマンサ・ケイト・アリシア:
「「「はあ???」」」
ジェイコブ:
「ああ……、思い出すと気持ち悪いぜ……。
仕事からいつも通り帰ってきたらよ、フラットの裏に緑色の光が見えたんだ」
ケイト:
「光?」
ジェイコブ:
「おう。その光が消えたと思ったら、頭上に突然光った円盤が現れて……。
そっから先は全然記憶がねえんだよ」
「気が付いたら同じ場所にアホみたいにおねんねしてた」
ケイト:
「ちょっと……何を言ってるか……整理させて。
つまり、酒を飲み過ぎただけの話でしょ?」
ジェイコブ:
「ちげえよ。俺は正気だって。
酒は確かに飲んだが、前後不覚になるまで飲んでねえぞ」
アリシア:
「やっぱやらせじゃなかったのか~!」
ケイト:
「え?」
アリシア:
「こないだテレビでやってたんだよ。
エイリアンが人間をさらってく事件。
アンタ大丈夫?本物?エイリアンと入れ替わったりしてない?」
ジェイコブ:
「その前にお前が一番怪しいんだよなあ。
実はエイリアンだろお前?」
アリシア:
「なぬ!?」
サマンサ:
「あのSF映画みたい……。
……とにかく、アーサーに電話しないと」
「……というわけ」
アーサー:
「で、奴は?」
サマンサ:
「部屋。もう寝るって」
アーサー:
「エイリアンにさらわれたなんて酷い言い訳だな。
何だったんだ……。
無事だっただけ良かったけど」
サマンサ:
「そうね。
アーサー、探しに行ってくれてありがとう。
ごめんね……」
アーサー:
「いや良いけど……ブリジットのところまで行っちゃったよ俺」
サマンサ:
「え!?」
アーサー:
「非常識だ。俺も迷ったよ。
だけどブリジットのところに行けば、解決しそうな気がしたんだ」
サマンサ:
「それで?」
アーサー:
「ああ、事情を話した瞬間にサマンサから電話が来たんだよ。
良かったよ、本当。一緒に捜すって言ってたし……」
サマンサ:
「電話しない方が良かったのかなあ?……なんてね」
アーサー:
「え?」
サマンサ:
「ううん。
3時40分……まだ少し眠れるね」
「アーサー、おやすみ」
アーサー:
「?」