アーサー:
「ブリジット」
ブリジット:
「……あれっ!?」
アーサー:
「良かった、追い付いて。
家まで送るよ」
ブリジット:
「……」
アーサー:
「?」
ブリジット:
「今日、ほとんど寝てないでしょ」
アーサー:
「それは皆同じだ」
ブリジット:
「気持ちは嬉しいけど、アーサーは早く休まなくちゃ」
アーサー:
「君を送ったら休むよ。さあ歩こう」
ブリジット:
「あ、待って!」
アーサー:
「ちゃんと謝りたかったんだ。
あんな時間に押しかけて……」
ブリジット:
「気にしないで。
ジェイコブはちゃんと無事に帰ってきたんでしょ?
それが一番だよ」
アーサー:
「ああ、『無事に』。
何でも、UFOを見たとか。
エイリアンにさらわれて家に着くのが遅くなった……らしい」
ブリジット:
「UFO?エイリアン??
ふふふふ!ジェイコブって面白い人」
アーサー:
「ちょっと何言ってるか分からないだろ。ふざけてるよな。
無事で良かったけどさ」
ブリジット:
「うん、ふふふ」
アーサー:
「……今日はカフェは休みだったのか?」
ブリジット:
「ううん。
今日はいとこが代わってくれた。
伯母さんも戻ってきたしね!」
アーサー:
「そうか!
伯母さん、大丈夫なのか?」
ブリジット:
「うん!
予定よりもちょっと早く退院できたの。
もうお店は手伝わなくて大丈夫って、私はお役御免になったんだ。
だから、封印してたスパ通いも明日から再開」
アーサー:
「あー、スパか…………」
ブリジット:
「?」
アーサー:
「ビーチ・バイウェイ?」
ブリジット:
「うん」
アーサー:
「一回も行ったことないんだ。会社の隣にあるのに」
ブリジット:
「そうなの?もったいない!」
アーサー:
「行きたいけど何となく入りづらくて」
ブリジット:
「じゃあ、時間が合うようだったら明日一緒に行ってみる?」
アーサー:
「えっ。良いのか?」
ブリジット:
「うん、大歓迎!
アーサーは何をやるの?」
アーサー:
「……ええと……ブリジットはヨガをやってるんだよな?」
ブリジット:
「うん」
アーサー:
「俺もヨガ挑戦しようかと思ってるんだけど合うかどうか……」
ブリジット:
「ふーん、そっか。
じゃあ、無料体験はどう?
当日飛び入り参加でも多分大丈夫だと思うけど。
先に電話で確認した方が良いかも」
アリシア:
「……サマンサの言った『悠久の愛』の意味分かった~」
「あれじゃ進展するのか謎だね。
じれったいというか、もどかしいというか……、
げ、このポテチ湿気てる~」
サマンサ:
「そうそう(笑)
周りだけがやきもきさせられるの。
大学の時も……あっ!」
アーサー:
「……」
サマンサ:
「送れた?」
アーサー:
「ああ。もう向こうの部屋は使わない?
電気切るけど……」
サマンサ:
「うん、もう寝るから切って良いよ。
おやすみ」
アーサー:
「ああ、おやすみ」
アリシア:
「……。どう思う?」
サマンサ:
「うーん、いつも通り、かな」
ブリジット:
「ふ~……」
「金曜の仕事終わりは一週間の中で最も気分が上がる瞬間。
だけど、今日は特別」
エリック:
「……ジョン、オアシス・スプリングスの方はどうなってる?」
「10日ほどかかりそうです」
エリック:
「今月はこれで最後にしてもらいたい」
「ハハ、本当ですね。
たまには良い週末を送れると良いんですが……」
エリック:
「良い週末ねえ……」
ブリジット:
「(ただいま、ビーチ・バイウェイ!)」
「(……あ!)
アーサー!」
アーサー:
「あ、ブリジット」
ブリジット:
「待たせてごめんね」
アーサー:
「全然!ちょうど今受付済ませたところなんだ」
ブリジット:
「そっか!
枠が空いてて良かったね」
アーサー:
「ああ……」
ブリジット:
「…………あれ、ちょっと緊張してる?」
アーサー:
「少し」
ブリジット:
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫。
スパはリラックスするところだもん。
肩の力を抜いて、仕事の疲れを癒さなきゃ」
アーサー:
「それもそうだな」
ブリジット:
「うんうん!楽~にね。
じゃ、中に入ろう。受付済ませてくるから、待ってて」
アーサー:
「(……話したいことがたくさんあったような気がするけど、
いざこうして2人になると何にも出てこない)」」
「(自分の思いを言葉に乗せて伝えるのは難しいな……)」
ブリジット:
「お待たせ!」
アーサー:
「!」
ブリジット:
「ふふ、こんな隅っこで待ってたの?
貸出ウエアの場所は教えてもらった?」
アーサー:
「ああ。更衣室入ってすぐのところにあるって聞いたよ」
ブリジット:
「ばっちり!
じゃ、私は着替えてくるね」
アーサー:
「(……)」
「(あ、この人も仕事帰りかな?
へえ、結構いるんだ……)」
「(もしかして、ノーランドさんも来てるのかな。
バートもこの前ジムに通ってるって話してたし、皆何かしらやってるんだ……。
仕事帰りに寄るのはアリかもしれない)」
ブリジット:
「着替えた?」
「うんうん、なかなか似合ってるよ。
行きましょう!」
アーサー:
「えっ、ブリジットも一緒なのか?」
ブリジット:
「あ、駄目?」
アーサー:
「いや、駄目じゃないけど」
ブリジット:
「じゃ、早く早く!始まっちゃうよ」
インストラクター:
「皆さん、こんばんは。
精神集中ヨガの入門クラスにようこそ」
「まずは『コンシャス・ブリージング』から始めましょう。
足を軽く広げて……お腹からゆっくり息を吸って……吐いて」
アーサー:
「すーっ……。
ふーーーーっ…………」
ブリジット:
「(基本は大切ね)」
インストラクター:
「それでは皆さん、ご自分のできるところまでで結構ですから、
私の動きに合わせてみてください」
ブリジット:
「(アーサーはついてきてるかな?)」
アーサー:
「い、痛っ……」
ブリジット:
「(ふふ)」
「……どうだった?結構良い汗かくでしょ」
アーサー:
「ああ!滝のように汗が出たよ。シャワーがあって助かった」
ブリジット:
「ふふふ」
アーサー:
「せっかく久しぶりのスパだったのに、付き合わせちゃったな。
予約してたんだろ……?」
ブリジット:
「ううん!当日キャンセルも気軽にできるから大丈夫。
それに、時々基本を見直すのはすごく大切なことだしね!」
アーサー:
「それなら良かった。
……にしてもブリジット、凄いな。
先生超えてるよ。
俺なんか身体が硬くて……」
ブリジット:
「私はいつも通ってるもん。
アーサー、木のポーズ、とっても綺麗にできてたよ」
アーサー:
「み、見てたのか?
全然ダメダメだったんだけど」
ブリジット:
「ダメダメじゃないよ。今日初めてでしょ。
いきなり完璧だったら先生いらないもん!
今、仕事の疲れがちょっと減ってない?」
アーサー:
「……確かに……。アロマのおかげもあるかな?
何となく身体が楽になったというか……すっきりした気がする」
ブリジット:
「うん、そのすっきり感があれば今日はもう合格だよ!
続けてやれば身体がほぐれて、もっと綺麗にポーズが取れるようになると思う。
知らず知らずのうちにインナーマッスルも鍛えられるし……」
アーサー:
「俺、ヨガクラス入会しようかな」
ブリジット:
「本当!?」
アーサー:
「ああ。
(筋肉付くと良いな……)」
ブリジット:
「わあ、やったあっ!仲間が増えた!
じゃあ、時々会えるかもね!」
アーサー:
「(そんなに嬉しそうにされると、めちゃくちゃプレッシャーだ……)」
ブリジット:
「あーあ。時間が過ぎるのはあっという間だね。
もっとお話ししたかった」
アーサー:
「そうだな。また今度ゆっくり…………」
「映画上映中:『スティル・ライフ』
――時を止めてしまうほどの強い愛」
アーサー:
「そうだ、ブリジット。
今度さ……」