イアン:
「ん~……」
ジェイコブ:
「……」
イアン:
「ああ、びっくりした!
ジェイコブ、声くらい掛けてよ」
ジェイコブ:
「……」
イアン:
「睨まれても困るなあ」
「門限を破った君が悪い」
ジェイコブ:
「へえへえ、そうですとも。
おかげで俺はダチの汚え家に泊めてもらうはめになった」
イアン:
「泊めてくれたんだ。
良い友達を持ってるね!」
ジェイコブ:
「そう爽やかに言うな。
開けてくれよ……」
イアン:
「大雨の中、野宿しやしないかって心配してたんだ。
あはは」
ジェイコブ:
「この家の奴らは皆非情だよ。クソったれ」
イアン:
「元々外泊する気だったんじゃないの?」
ジェイコブ:
「気が変わったんだ。
……サマンサは?」
イアン:
「彼女は仕事だよ」
ジェイコブ:
「だよな。
いつ出かけた?」
イアン:
「えーっと。
7時過ぎかな」
ジェイコブ:
「(ってことは帰りは早くて18時。
18時には仕事が入ってんな……)」
イアン:
「あ、そうだ。
サマンサと言えば」
ジェイコブ:
「!何か言ってたか!?」
イアン:
「いや、何も言ってないよ」
ジェイコブ:
「なっ……………………!
……何だよ…………」
イアン:
「じゃなくてね。
やっぱりこの頃元気ないと思うんだ。
僕の気のせいだと良いんだけどね」
サマンサ:
「ジェイコブとは顔を合わせることもなく、幾日かが過ぎていった。
心も身体も不安定な日が続いた」
「…………」
アーサー:
「…………まだ体調悪いのか?」
サマンサ:
「え……?」
アーサー:
「大丈夫……?」
サマンサ:
「やだ、アーサー大げさ。
私は元気よ?」
アーサー:
「……そう?」
サマンサ:
「そう。
ところでヨガ始めた…………んだよね。
ブリジットと一緒に通ってるの?」
アーサー:
「いや。
会うこともあるけどクラスが違うからな」
サマンサ:
「あ、そうなんだ」
アーサー:
「勿論そうだよ。
ブリジットには付いていけない。
インストラクターより上手いんだ」
サマンサ:
「うふふ。
むしろブリジットに教えてもらった方が良いんじゃない?」
アーサー:
「ハハハ。確かに。
……あ、サマンサ。お茶でも飲む?
淹れるよ」
サマンサ:
「良いの?
ありがとう」
「……」
「(フラットを出ること、皆に言わなくちゃ……。
そろそろ荷造りもしなくちゃいけないし。
それとママとパパへの説明も考え……!)」
ジェイコブ:
「(出ない、か。
不思議と顔を合わすこともない。
こりゃあ傷は深えぞ……)」
「こんなところにいた!
何してんだよ」
ジェイコブ:
「ああ。今行く」
「(ちゃんと面と向かって話そう。
幸い、明日あいつは休みだ。
しかしそのためには)」
「(やらなきゃいけねえことがある)」
ケイト:
「あら、お早いこと」
ジェイコブ:
「よう、冷徹仕事バリバリ・マルグリーズさん」
ケイト:
「褒め言葉ね?
ありがとう」
ジェイコブ:
「随分ゆっくりじゃねえか」
ケイト:
「私は今日は貴重な有休なわけ。
ゆっくりしたって良いでしょ?」
ジェイコブ:
「チッ!」
ケイト:
「何よ、その大きな舌打ち!
失礼な人ね」
ジェイコブ:
「アリシアじゃなかっただけマシか」
ケイト:
「は?」
ジェイコブ:
「何でもねえ」
ケイト:
「バンドの話は進んでるの?」
ジェイコブ:
「入らねえって言った奴に報告するかよ」
ケイト:
「あら、そう。なら別に良いけど」
ジェイコブ:
「ケッ!
あー!やる気しねえ。な~んもやる気しねえ」
ケイト:
「どうしたの?
あんなに意気揚々だったのに」
ジェイコブ:
「何だかよ、どうでも良くなっちまった…………」
ケイト:
「あ!
そうよ!そんなことどうでも良いのよ。
聞いた?
サマンサ、引っ越すんですって」
ジェイコブ:
「あ?」