#27 「すれ違い」

イアン:
「ん~……」

ジェイコブ:
「……」

イアン:
「ああ、びっくりした!
ジェイコブ、声くらい掛けてよ」

ジェイコブ:
「……」

イアン:
「睨まれても困るなあ」

「門限を破った君が悪い」

ジェイコブ:
「へえへえ、そうですとも。
おかげで俺はダチの汚え家に泊めてもらうはめになった」

イアン:
「泊めてくれたんだ。
良い友達を持ってるね!」

ジェイコブ:
「そう爽やかに言うな。
開けてくれよ……」

イアン:
「大雨の中、野宿しやしないかって心配してたんだ。
あはは」

ジェイコブ:
「この家の奴らは皆非情だよ。クソったれ」

イアン:
「元々外泊する気だったんじゃないの?」

ジェイコブ:
「気が変わったんだ。
……サマンサは?」

イアン:
「彼女は仕事だよ」

ジェイコブ:
「だよな。
いつ出かけた?」

イアン:
「えーっと。
7時過ぎかな」

ジェイコブ:
「(ってことは帰りは早くて18時。
18時には仕事が入ってんな……)」

イアン:
「あ、そうだ。
サマンサと言えば」

ジェイコブ:
「!何か言ってたか!?」

イアン:
「いや、何も言ってないよ」

ジェイコブ:
「なっ……………………!
……何だよ…………」

イアン:
「じゃなくてね。
やっぱりこの頃元気ないと思うんだ。
僕の気のせいだと良いんだけどね」

 

サマンサ:
ジェイコブとは顔を合わせることもなく、幾日かが過ぎていった。
心も身体も不安定な日が続いた

「…………」

アーサー:
「…………まだ体調悪いのか?」

サマンサ:
「え……?」

アーサー:
「大丈夫……?」

サマンサ:
「やだ、アーサー大げさ。
私は元気よ?」

アーサー:
「……そう?」

サマンサ:
「そう。
ところでヨガ始めた…………んだよね。
ブリジットと一緒に通ってるの?」

アーサー:
「いや。
会うこともあるけどクラスが違うからな」

サマンサ:
「あ、そうなんだ」

アーサー:
「勿論そうだよ。
ブリジットには付いていけない。
インストラクターより上手いんだ」

サマンサ:
「うふふ。
むしろブリジットに教えてもらった方が良いんじゃない?」

アーサー:
「ハハハ。確かに。
……あ、サマンサ。お茶でも飲む?
淹れるよ」

サマンサ:
「良いの?
ありがとう」

「……」

「(フラットを出ること、皆に言わなくちゃ……。
そろそろ荷造りもしなくちゃいけないし。
それとママとパパへの説明も考え……!)」

 

ジェイコブ:
「(出ない、か。
不思議と顔を合わすこともない。
こりゃあ傷は深えぞ……)」

「こんなところにいた!
何してんだよ」

ジェイコブ:
「ああ。今行く」

「(ちゃんと面と向かって話そう。
幸い、明日あいつは休みだ。
しかしそのためには)」

 

「(やらなきゃいけねえことがある)」

ケイト:
「あら、お早いこと」

ジェイコブ:
「よう、冷徹仕事バリバリ・マルグリーズさん」

ケイト:
「褒め言葉ね?
ありがとう」

ジェイコブ:
「随分ゆっくりじゃねえか」

ケイト:
「私は今日は貴重な有休なわけ。
ゆっくりしたって良いでしょ?」

ジェイコブ:
「チッ!」

ケイト:
「何よ、その大きな舌打ち!
失礼な人ね」

ジェイコブ:
「アリシアじゃなかっただけマシか」

ケイト:
「は?」

ジェイコブ:
「何でもねえ」

ケイト:
「バンドの話は進んでるの?」

ジェイコブ:
「入らねえって言った奴に報告するかよ」

ケイト:
「あら、そう。なら別に良いけど」

ジェイコブ:
「ケッ!
あー!やる気しねえ。な~んもやる気しねえ」

ケイト:
「どうしたの?
あんなに意気揚々だったのに」

ジェイコブ:
「何だかよ、どうでも良くなっちまった…………」

ケイト:
あ!
そうよ!そんなことどうでも良いのよ。
聞いた?
サマンサ、引っ越すんですって」

ジェイコブ:
「あ?」

 

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