ウィンデンバーグ
ジェイコブ:
「さみいな……」
サマンサ:
「あ、あの、ジェイコブ?」
「待たせちゃってごめんね。
19時で抜けられるはずだったんだけど」
ジェイコブ:
「おう!全然待ってな……」
「……サマンサ?いつもと雰囲気違うな」
サマンサ:
「変?」
ジェイコブ:
「いいや。よく似合ってるぜ」
サマンサ:
「……ありがとう……」
「……髪型一つでこんなに変わっちゃうのね」
ブリジット:
「ちょっとの手間で全然雰囲気違うでしょ」
サマンサ:
「本当……」
サマンサ:
「メイクはいつも通りで良いの?」
ブリジット:
「あんまりいつもと離れすぎてもね」
サマンサ:
「あ、そういうものな……んだ」
ブリジット:
「サマンサ、もっと自信持たなきゃ。
『私みたいなの』はナシだよ。
それに、向こうから誘ってきてるんだから!」
サマンサ:
「そうよね。
こんな素敵にアレンジしてもらうと、自信湧いてくる」
ブリジット:
「そうそう、その調子!
最高のデートになるよう、祈ってるからね」
サマンサ:
「(ジェイコブ、どう思うかなあ……)」
ジェイコブ:
「……てかお前、その格好寒くねえか?」
サマンサ:
「あ……ちょっと肌寒くなってきたかな?」
ジェイコブ:
「夏が待ち遠しいのは分かるけどな。
俺のコート貸してやるよ」
サマンサ:
「あ、大丈夫。そこまでじゃないから」
ジェイコブ:
「じゃ、こっち来いよ。
くっついて歩けば寒くねえぞ?」
サマンサ:
「(煙草の匂い……)」
「(わ……!)」
ジェイコブ:
「……いやー、見慣れた光景だぜ。
今夜は踊り明かすとするか。な?」
サマンサ:
「えっと……私、こういうところ来たことなくて。
踊るとかは無理っていうか」
ジェイコブ:
「お前来たことねえの!?」
サマンサ:
「え、言ってなかった……?
一度もないよ」
ジェイコブ:
「ダンスフロアに来ない国民がいるなんてよ……。
人生損してるぜ……。
ってことは、今日から得だな。
さ、入った入った」
サマンサ:
「(う、入らないうちから音が響いてくる……)」
ジェイコブ:
「今日も盛況でやんの。
俺、向こうで飲むもの頼んでくるからよ、お前は下で適当に踊ってな」
サマンサ:
「え、ちょ、ちょっと……」
「(もう、来たことないって言ってるのに!)」
「(適当に踊れだなんて……)」
「(隅の方で踊れば下手でも目立たないよね?)」
「キミ可愛いね、暇?」
サマンサ:
「?」
「この後予定ある?」
サマンサ:
「(……私のこと?)
……や、あの、暇っていうか暇じゃないっていうか……」
「アハハハ。何言ってんの?」
サマンサ:
「(うう、何だか怖い……ジェイコブ、早く来て)」
「どこ行くの?遊ぼうよ」
ジェイコブ:
「おい、サマンサ」
「上で飲むぞ。てめえら何してんだ?」
「な、何もしてねえよ」
ジェイコブ:
「何だあいつら?」
サマンサ:
「さ、さあ?」
ジェイコブ:
「お前案外危なっかしいな。
ああいうのはハッキリ断らねえと」
サマンサ:
「そうですね(白目)」
ジェイコブ:
「あとな、なるべくでかい声で喋れ。
ここじゃお前の声、かき消されちまうのよ」
サマンサ:
「もっと大きな声出すの?」
ジェイコブ:
「もっとだ、もっと。
拡声器持って『わあああ』って叫ぶイメージだ。
そうすりゃさっきのあいつらも逃げ出すぜ?」
サマンサ:
「うふふ……!うん!」
ジェイコブ:
「……アーサーはブリジットと付き合ってるのか?」
サマンサ:
「うーん、付き合ってるのかというと微妙なんだけど……そんな感じだと思う。
ティーンの頃は文通してたんだよ」
ジェイコブ:
「文通ぅ?」
サマンサ:
「アーサーの学校は寄宿制だったから、手紙でやり取り」
ジェイコブ:
「手紙かよ!すげえ古典的」
サマンサ:
「多分携帯が禁止だったんじゃないかなあ?」
ジェイコブ:
「ほう。俺はてっきりアーサーはお前かとばっかり思ってた」
サマンサ:
「え!?それはないない。ただの幼馴染ってだけ」
ジェイコブ:
「なら安心だよな?」
サマンサ:
「…………」
ジェイコブ:
「俺とこんな時間にいるってことがどういうことを意味するか分かるか?」
サマンサ:
「ねえ、さっきから……酔ってるでしょ?」
「……それに、皆が心配する。帰らなくちゃ」
ジェイコブ:
「お前、からかってんのか?」
サマンサ:
「そんなつもりじゃ……」
ジェイコブ:
「それじゃあ聞かせろよ。イエスかノーか。
……これは脅しじゃねえ。嫌なら断れ」
サマンサ:
「……」